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病態や症状

(i)顔面神経の構成

顔面神経は、顔面表情筋やアブミ骨筋の運動を支配する運動神経、涙腺や唾液腺の分泌に関与する分泌副交感神経、軟口蓋・舌の味覚に関与する味覚神経から構成されています。この中で、麻痺による症状として問題になるのは、運動神経麻痺と涙腺の分泌障害です。

(ii)顔面神経麻痺の症状

A:顔面表情筋の運動麻痺の症状

顔面神経は主に顔の表情を作る筋肉(表情筋)の運動を支配しています。顔面に分布する顔面神経は側頭枝、頬骨枝、頬筋枝、下顎縁枝の4つに分かれています。これらの神経が麻痺すると多彩な症状が現れます。

側頭枝の麻痺では前頭筋の麻痺により眉毛や上眼瞼が下垂します。眉毛の位置が下がり左右でずれたり、覆い被さった上眼瞼のために視野が狭くなり物が見えづらくなります。

頬骨枝の麻痺では瞼輪筋が麻痺して瞼が閉じなくなります。角膜が露出し乾燥して角膜炎や角膜潰瘍を引き起こし、失明にまで至ることがあります。また下眼瞼が緩んで外反を引き起こし、眼痛や涙目を生じます。

分泌副交感神経麻痺で涙液の分泌障害を合併する場合や、角膜の知覚に関与する三叉神経麻痺を合併する場合は、これらの症状が重症になりやすくなります。

頬筋枝の麻痺では口角や上口唇を引き上げることができなくなります。麻痺側の口唇が下垂して鼻と口の横の溝(鼻唇溝)が消失したり、左右非対称のいびつな表情となります。充分な閉口ができなくなり、食事の時に食べ物が漏れてこぼれます。笑うと左右の顔面の非対称が目立ちます。

下顎縁枝の麻痺では口角・下口唇を引き下げることができなくなり、下口唇は健側へ引っ張られて非対称の口唇形態を生じます。

これらの変形は外見だけでなく咀嚼、構音にも影響を及ぼしQOLの低下を招きます。すべての神経が麻痺すると日常生活に大きな支障をきたし、整容面と機能面で患者さんにとって苦痛を伴う症状を起こします。

B:顔面神経麻痺の後遺症

顔面神経麻痺の後遺症は、自然回復または外科的治療によって神経再支配が行われ麻痺が回復するにつれて次第に現れてくる症状で、麻痺による症状以外に、麻痺症状の回復後も後遺症として残ってしまう症状です。

a)顔面拘縮・眼瞼拘縮、顔面痙攣

顔面神経障害を生ずると、眼や口を閉じる機能(生体防御反応)を早く回復させるために、顔面神経核の興奮性亢進が起こり、結果的に表情筋が不随意にいつも収縮している過緊張の状態が生じ、筋の短縮が起こります。

口唇周囲や頬部の筋肉の過緊張状態を顔面拘縮と言い、顔がこわばり、鼻唇溝が深くなります。眼瞼周囲の筋肉の過緊張状態を眼瞼拘縮と言い、眼が細くなってしまいます。

また、意識せずに顔の一部がピクピクと動いてしまう顔面痙攣も生じます。

b)病的共同運動

神経線維の1本1本は長いケーブルのようなもので、顔面神経ではこれらのケーブルが接触して1本のチューブ内をまとまって走行しています。そこで、神経が再生する過程では本来のケーブルでなく別のケーブルに再生神経が入ってしまったり(迷入再生による神経の過誤支配)、ケーブルが接触している部分で神経の興奮が別の神経に伝わってしまう(接触伝導)ことが生じます。

これにより本来は別々に動いていた表情筋が同時に動いてしまい、目と口が同時に動いてしまう、笑ったり食事時に眼瞼が閉じて目が細くなるなどの症状が起こります。

c)摂食時の流涙障害(鰐の涙)

迷入再生による神経の過誤支配は、運動神経だけでなく分泌副交感神経でも起こります。本来唾液腺に行っていた神経が、再生神経では涙腺に入ってしまうことにより、食事時に唾液だけでなく涙も出てしまう症状を言います。

これらの症状は麻痺の回復に伴って生じるため、全く回復の無い完全麻痺では起こりません。また、神経障害の程度が軽く回復の程度が良好な場合には、症状は軽度です。神経障害の程度が強く十分な回復が見られない場合に、これらの後遺症の症状も強く見られます。

これらの後遺症の頻度は病因や年齢、治療方法、治療開始時期などにより異なりますが、麻痺を発症してから6ヶ月以内に完治しなかった場合 は、何らかの後遺症が残るといわれています。

麻痺の回復期においては、麻痺が残っていて筋力が低下している状態と、後遺症による筋肉の過緊張が混在し、複雑な病態を呈することになります。口唇部を例に取ると、静止時には麻痺側の口唇は顔面拘縮により引き上がってしまい鼻唇溝が深くなっているのに、口唇を引き上げる運動を行なった場合は麻痺側は僅かにしか引き上がらず、しっかり引き上がっている健側の方が鼻唇溝は深くなります。