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東京歯科大市川総合病院サイト

動的再建術

顔面神経以外の神経(三叉神経)により支配される咀嚼筋(側頭筋や咬筋)を眼や口唇に移行したり(筋移行術)、新たに体の別の部位(側胸部・背部・大腿・腹部など)から一部の筋肉を神経と血管と一緒に採取して手術顕微鏡下に顔面へ移植(神経血管柄付き遊離筋肉移植術)する方法です。

結果として下垂部を引き上げる運動や顔面の表情運動がみられるので動的再建と呼ばれます。静的再建手術は安静時の顔の歪みを改善させる方法であるのに対して、動的再建手術は表情運動も改善させる方法です。

筋移行術で得られる表情運動はあまり大きくはないため、よりしっかりした表情運動を得るために通常は神経血管柄付き遊離筋肉移植術を選択していますが、遊離筋肉移植術はやや長時間手術となるため、高齢などで長時間手術を避けたい場合は筋移行術を選択しています。

i)筋移行術

側頭筋とその筋膜の一部を利用する側頭筋移行術は、強度な閉瞼障害に対しては下(上)眼瞼に、下垂した口唇の挙上運動の再現(笑いの再建)に対しては上下口唇・口角部に側頭筋筋膜を移行して、噛む動作による側頭筋の収縮で、下眼瞼を引き上げて閉瞼させたり、口唇を引き上げて笑いの表情を作ります。

下垂した口唇の挙上運動の再現(笑いの再建)に対しては、上下口唇に移植した大腿筋膜を咬筋に巻きつけて、噛む動作による咬筋の収縮により口唇を引き上げるMuscle bow traction法も行ないます。

ii)神経血管柄付き遊離筋肉移植術

体の別の部位の筋肉(側胸部の前鋸筋、背部の広背筋、大腿の薄筋、腹部の腹直筋など)の一部を、筋肉の栄養血管と運動支配神経を付けて採取して、筋肉を頬部(口唇と耳前部間)に移植して、筋収縮により口唇を引き上げて笑いの表情を再現させる方法です。

移植筋の運動神経は、患側の顔面神経は利用できないため、健側の顔面神経や患側の咬筋神経に縫合して再神経支配させます。筋の神経再支配までには時間がかかり、筋肉の収縮は健側の顔面神経を用いた場合は8ヶ月前後から、患側の咬筋神経を用いた場合は3~4ヶ月後から始まります。

当科ではより自然な笑いを再現すべく、薄層前鋸筋を用いた多ベクトルの表情筋再建を行っています。

iii)神経血管柄付き遊離薄層前鋸筋を用いた多ベクトルの表情筋再建

口唇周囲の表情筋には口輪筋以外に、口唇を上方、斜め上方、横、斜め下方、下方に動かす幾つもの筋肉があり、これらの筋肉の共同した働きで複雑な表情が作られています。笑いの表情の再建には、口唇を斜め上へ引き上げる働きをさせるべく移植筋肉を頬部に配置しますが、従来行なわれてきた1つの筋肉移植による一方向の引き上げだけでは複雑な表情を十分には再現できません。

そこで、我々は側胸部の前鋸筋が元々幾つかの筋体に分かれていることに注目し、3つの筋体を口唇の上方、斜め上方、横方向の多ベクトルの方向に配置し、より自然な笑い表情の再建を行なっています。(図1、図2)


図1

図2

しかし、3つの筋体を移植するとその分だけ頬に厚みが増してしまいます。そこで我々は前鋸筋が浅層と深層の2層に分れる点にも注目して、筋肉を非常に薄く採取して移植することで移植後の頬部の膨らみというこれまでの欠点を防いでいます。


図3

また、側胸部に残した前鋸筋筋体への運動神経は温存するため、採取部分に機能障害は残しません。

2011年10月に台湾で行われた、国際顔面神経麻痺フォーラムで、この遊離薄層前鋸筋を用いた多ベクトルの表情筋再建のライブサージェリー(生の手術を学会参加者にTV中継)を行いました。アメリカ、イギリス、ベルギー、オーストラリア等、世界を代表する8チームがライブサージェリーに招待されて手術を行いましたが、日本よりは我々と杏林大学のチームが招待されました。(図3)