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脊椎・脊髄病センター

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ごあいさつ 脊椎・脊髄病センター(センター長 青山 龍馬)

センター長 青山 龍馬

当センターの第1の特徴はあらゆる患者さんに対応出来ることです。超高齢化社会にある日本では、心疾患、糖尿病、悪性腫瘍など様々な病気に対応することが必要です。当院は地域の基幹病院として、様々な疾患に対応することが出来ますので、当センターでは患者さんが安心して病気の治療に取り組むことができます。
第2の特徴はMIS(Minimally Invasive Surgery、最小侵襲手術)を行える点です。筋肉を温存した各種手術、BKP(Balloon Kyphoplasty、経皮的後弯矯正術)、MIST(Minimally invasive spine stabilization、低侵襲脊椎安定術)など患者さんに優しい手術を心がけております。

東京歯科大学市川総合病院 脊椎・脊髄病センターの紹介

当センターが多くの患者さんに対応できる理由

年齢が80代だからと手術をあきらめているような方はいらっしゃいませんか?低侵襲な麻酔法の進歩や、各科の医療水準の進歩および低侵襲脊椎手術の開発により90代でも脊椎手術を行うことができるようになっています。現在、日本には100歳以上の方が67000人(2017年度)いらっしゃいます。その方々の健康寿命を延ばし、幸せになってもらうことが我々の使命です。よって、脊椎手術を80代以上でも積極的に考慮する必要があると思います。しかし、高齢者では、整形外科疾患だけでなく、糖尿病、腎機能障害、あるいは循環器障害など複数科にまたがる問題を抱えている方がすくなくありません。当院は総合病院であるために各科のバックアップが得られますから、合併症のある高齢者の手術にも対応が可能です。具体的には、心疾患、肺炎、肺塞栓症などが術後に起こっても当院内で対応出来ますので他院への搬送は不要です。病気の種類によっては術後管理をICU(集中治療室)で行っており、緊急事態の時に即座に手術を行うことも出来ます。糖尿病があれば、糖尿病のコントロールを手術前に、あるいは続行しながら手術をすることも出来ます。また当院はがん拠点病院でありますので、転移性脊椎腫瘍についても当科の腫瘍のエキスパートである穴澤教授や渡部講師の支援を受けながら積極的な治療を行っております。転移性脊椎腫瘍による痛みで体動困難な患者さんは、原発腫瘍の化学療法が適応とされません(動けない人は病状が末期と判断され、多くの場合、化学療法は行われません。)がんの治療ができなくなってしまうのです。このような時は脊椎をしっかりさせる手術を行い、転移腫瘍による痛みを軽減し、患者さんの移動能力や活動性を向上させることにより、がんの治療を可能とできる場合もあります。
以上の理由から、他施設では治療が困難な患者さんが、しばしば当院に紹介され、当院での治療後に、地元に戻るケースが多々あります。
これらのことが出来るのは、当院が総合病院であるために全科のバックアップが得られるからです。超高齢者や合併症のある方の手術を他科と連携して行うことができることが当科の大きな特徴です。

脊椎・脊髄病センター3つの柱 ①安全性 ②確実性 ③低侵襲

当センターでは安全性、確実性、低侵襲を考慮して手術を行います。
脊椎の手術は、全身を動かす要となる中枢神経の手術になりますので、手術には、「安全性」「確実性」が確保されなければいけません。当院では安全性と確実性を高めるために、医療スタッフの技術向上や新しい機器の導入を行っています。具体的には、顕微鏡手術とナビゲーションシステムの導入、および筋肉温存型低侵襲手術の実践となります。

①安全性について

顕微鏡の使用

顕微鏡の使用によって、手術部位が明るく詳細に確認可能で、より正確に手術をおこなえます。なぜなら、1. 肉眼では確認困難な筋肉の走行や神経線維がわかる2. 微小な血管が確認でき、少量の出血で対応ができる。3. 手術の際に術者と助手が全く同じ視野を得ることができるためです。当院では、Carl-Zeiss社の顕微鏡を導入し2005年より、顕微鏡下の手術の実践を行っています。

顕微鏡の利点

  1. 明るく、詳細に構造を確認できる
  2. 出血のコントロールがしやすい
  3. 術者と助手が完全同一視野である

顕微鏡の使用によって、当院独自の筋肉を傷つけない、筋肉温存型の手術が可能となります。また、頚椎や腰椎の除圧術については多くの例で、出血が採血量程度の少量で手術が終了します。さらに、手術の際に術者と助手が全く同じ視野を得ることには、患者さんにとって大きな利点になります。顕微鏡を使用しない肉眼による手術ですと、術者は大事な手術手順の際は術野に合わせて顔の位置が変化しますので、術野に顔がよっていきます。このため、術者の頭が邪魔になり助手がうまく術野を見ることができなくなります。

肉眼の手術

肉眼の手術(上)と顕微鏡を使用した手術(下)

顕微鏡を使用した手術

すなわち、大事な手術手技の手順になればなるほど、助手が手術部位を見づらくなることが生じます。顕微鏡の使用により、術者と助手が、全く同じ視野で手術を行うことが可能となります。よって、助手の適切なアシストが可能となり、手術全体のクオリティーが向上します。

外視鏡(オーブアイ)の使用

ソニー製の55型3D-4Kモニターを使用して、脊椎手術を施行
ソニー製の55型3D-4Kモニターを使用して、脊椎手術を施行している。

外視鏡は顕微鏡と内視鏡の中間的な道具です。顕微鏡をモニター画面でみるイメージになります。
オリンパス社とソニー社のカメラや3D映像技術を生かした新世代の手術用顕微鏡(オーブアイ)です。
小型のカメラで術野を撮影し、55型の大型3D-4Kモニターに術野を表示することで、立体的に術野の微細構造を観察することができます。
顕微鏡だと、実際の顕微鏡をのぞいている術者と助手の二人にしか本当の術野は見えませんが、外視鏡だと術者と全く同じ視野を多人数で共有できます。適切な手術のアシストを複数の人から得られるのみならず、医療者への教育にも大変有用です。
ロボット手術や遠隔手術が始まっている現代では、モニターを使った手術が標準の手術になってきており、本システムの使用は時流に沿った必然的なものと言えます。今後は、本システムとAIテクノロジーが融合した未来の技術にまで夢が広がります。
当院では本システムを2021年から導入しており、顕微鏡手術で培った安全な脊椎の手術手技を、そのまま外視鏡手術で継続しております。

②確実性について

ナビゲーションシステム・電気モニターシステムの使用

脊椎の手術では、椎弓にスクリューを挿入する固定術を必要とすることがあります。スクリューを病巣の適切な部位に刺入する難易度は、骨の形や変形の程度で変わります。また、適切な部位に刺入するだけではなく、適切な角度で刺入しなければいけません。しかし、現在のスクリュー刺入の主流は、手の感触だけでスクリューを挿入する方法(フリーハンド法)です。この方法でスクリューを挿入すると、意図したところからスクリューが逸脱する可能性が5%-30%と報告されています(Gelalis I et al; Eur Spine J, 2012)。これに対して最新鋭のナビゲーションシステムを使用することで逸脱率を0%-10%程度に軽減することができます(Gelalis I et al; Eur Spine J, 2012 )。特に、スクリューの逸脱が、大きな合併症(神経、血管損傷)に直結する頚椎の手術では、変形が大きな場合にはこのシステムが大きな武器になります(脊椎固定術)。さらに、スクリューの逸脱を電気モニターシステム(Nuvasive社製NurovisionM5)で確認することでさらにスクリュー挿入の確実性を高めております。当院ではこのような最新鋭の機械を導入し、他院では手術が困難な症例でも、より確かな手術手技が行えるように努めております。

Medtronic社製ナビゲーションシステム

Medtronic社製ナビゲーションシステム
当院で導入しているMedtronic社製ナビゲーションシステム
スクリューの位置がリアルタイムで立体的に表示されます。

Nuvasive社製Nurovision M5システム

Nuvasive社製Nurovision M5システム
Nuvasive社製Nurovision M5システム
本システムの使用でスクリューの逸脱を電気的に判定します。

3Dによる画像支援

Hololens 2を使用し、術中に3D画像と術野を見比べて確認
Hololens 2を使用し、術中に3D画像と術野を見比べて確認を行っている。

ゴーグルをした人が実際に見える映像
ゴーグルをした人が実際に見える映像(患者さんの頭から首の骨が3Dで表示されている。)

首の骨と神経を3Dで表示
首の骨と神経を3Dで表示している。

Mixed reality(ミックスド・リアリティー:複合現実)という言葉をご存じでしょうか?Virtual reality(バーチャル・リアリティー:仮想現実)に似ている言葉なのですが、バーチャル・リアリティーが非透過性のゴーグル内で完全な仮想空間を3D映像で見ることにより、没入感の強い仮想現実を体験できるのに対して、ミックスド・リアリティーは透過性のゴーグル内に3D映像を表示し、現実の世界の中に仮想の3D映像が表示され、現実と仮想が融合した体験をすることが出来ます。マイクロソフト社の販売しているHololens2というMixed reality用の透過性ゴーグルにHoloeyes MDという医療用の画像表示ソフトを使用することで、手術の際に患者さんから術前に得られた画像情報を3Dで表示をすることができます。具体的には術前のCT検査からは主に骨の3Dデータを入手でき、MRI検査からは神経の3Dデータを入手できます。この3Dデータをもとにして、患者さんの骨や神経を目の前に完全な3Dで表示することが可能となりました。患者さんの原寸大で表示も出来ますが、大きく表示することや、回転させたりすることもでき、空間内でいろいろな方向から患者さんの状態を観察することが可能です。
変形が強い患者さんでは、2Dの画像を何度も見直して、頭の中で神経と骨の位置関係を術前に検討する必要があるのですが、これを3Dで表示することにより、直感的に容易に把握することができます。このことにより変形が強く手術が難しい患者さんの病態をより詳細に把握出来るようになり、手術の安全性が向上すると考えております。また、血管や腫瘍を表示させることも出来ますので、腫瘍摘出術の安全性向上にも役立っております。
CT検査、MRI検査の解像度の向上や、Mixed reality機器の急激な発展により3Dでの画像把握や患者さんへの3Dでの画像説明が当たり前の時代がやってくるかもしれません。当院では2021年より本システムの整形外科分野への応用を積極的に行っており、脊椎分野ではHoloeyes MDを使用した世界初の英論文を発表しております。非常に応用性の高い新技術と考えております。

③低侵襲手術について

筋肉を温存した手術を行います。

従来の頚椎の除圧術(脊椎の除圧術)では、頚椎の後方に付着する筋肉を骨からすべて切り離していました。頚椎の後ろにある筋肉群を骨から切り離してしまうと、筋肉を引っ張る場所がなくなってしまうために手術後に筋肉は萎縮してしまいます。このため、手術後の肩こりや首の痛みで患者さんが苦しむ場合があります。筋肉痛で動けなくなるぐらい痛くなった経験はだれにでもあると思うのですが、筋肉に直接的に外科的に障害を加えれば、痛くなるのが当然であることは容易に想像がつくと思います。
実際にわれわれが過去に行った研究によると、筋肉を切り離した患者さんは手術後に筋肉が萎縮し、手術前の4割程度しか筋肉が残っておりませんでした。しかし、われわれの筋肉を温存した術式後では9割程度の筋肉が残っておりました。また、本研究で手術の1年後の頚部痛の残存をインタビューしたところ、筋肉の切除を行われた人の多くが首のこりや痛みを訴えていたのにたいし、筋肉を温存した手術のあとに首のこりや痛みを訴えた患者さんはわずか2%のみでした。このことからも筋肉の温存が痛みと肩こりの軽減に重要であることが分かると思います(Shiraishi et al; Spine, 2003)。
また、頚椎の後ろの筋肉は首の正常な配列を維持するのに重要な役目があり、いわゆるインナーマッスルとして頚椎の配列を維持しております。このことは、我々が国際学会で発表し続けていることであります。

インナーマッスルの頚椎配列維持についての国際学会発表一覧

アメリカ頚椎外科学会(CSRS) 2010,2012年
ヨーロッパ頚椎外科学会(CSRS-ES) 2010,2012,2013,2016,2018年
アジアパシフィック頚椎外科学会(CSRS-AP) 2010,2012,2013,2017,2018年

頚椎は後ろにそる形(前弯)をとることが多く、この形がくずれて顔が前のめりになる変形を後弯変形といいます。従来の筋肉を切り離した手術をするとこの変形が出現することがあり、首の痛みが出現するのみでなく神経の障害なども出現した場合は、術後の重大な問題となります。われわれの筋肉を温存した術式では、手術後に変形が出現しにくいことが分かっており、この後弯変形を防ぐ意味でも有用性が高い術式と言えます。

従来法に対する筋肉温存法(当院開発)の利点

  従来法(筋切除あり) 筋肉温存法
筋肉の骨付着部の侵襲 多大 少ない
術後の筋肉萎縮率 60% 14%
肩こり、痛み残存率 66.7% 2%
術後変形 時に見られる ほとんど見られない

(Shiraishi et al; Spine, 2003)

腰の手術についても顕微鏡を使用して同様な方法で筋肉の温存に努めています。

また、当院の筋肉を温存した手術により早期社会復帰が可能となります。なぜなら、本法は骨の配列を変化させたり、金具の使用もしない大変シンプルな術式ですので、術後に生じる骨や金具のズレを心配する必要がありません。したがって、手術の後に首を固定や、装具等の装着の必要はありません。当然、リハビリ期間も短くなります。早期の社会復帰が可能となることより、忙しい方にも適した術式と言えます。また、他の術式で問題になる、術後の移植骨の脱転、内固定器金属の問題は生じません。
また、医療経済的にも本法は高価な材料(プレートやスクリュー)を必要としないので、医療経済の面からもすぐれております。高齢化社会による医療費の急騰が懸念される日本や先進国では有用性が今後クローズアップされると考えられます。
本邦のみならず東アジアでは本術式が大変注目されており、ベトナム、ミャンマー、中国などから留学生を多く受け入れており、東南アジアの各国で当院の方法が徐々に広がりつつあります。世界中で多くの患者さんに本法が施行できるようになることを願っております。

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