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生理学講座は昭和22年5月慶応義塾大学加藤元一教授を主任として始まり、昭和23年10月助教授であった山田守助教授が初代教授に就任し、本格的に生理学講座として教育・研究が始まった。その後昭和29年11月からは主任教授が伊藤秀三郎教授、坂田三弥教授、笹岡京子教授、鈴木隆教授、田﨑雅和教授となり現在に至っている。現在の講座の布陣は教授;渋川義幸、講師;木村麻記、黄地健仁の3名で教育・研究にあたっている。講座創設以来、首尾一貫して行われてきた研究課題は「口腔感覚」である。
口腔生理学に立脚した歯科医療と生理学に裏付けられる全身管理の基礎を徹底して涵養する。講義は生理学と口腔生理学とに分かれている。生理学は2年生前期から後期にかけて45コマの講義が行われている。口腔生理学は2年生後期と3年生前期にかけて30コマの講義がなされている。また生理学実習は3年生前期に30コマの実習が行われている。生理学は生命現象を物理学的手法を用いて論理づける学問のため、講義だけでは概念的な知識となってしまうが、実習を行うことによって、より具体的な知識として生命現象を説明できるようになってくる。また4年生の後期から5年生前期には臨床口腔生理学に関する講義も担当している。臨床実習中の5年生と臨床実習後の6年生に対しては通年で随時行われる臨床講義あるいは総合講義においても講義を担当している。ここでの講義は臨床医学や他の関連知識と結び付けた講義を行っている。
メルケル細胞や象牙芽細胞などの感覚受容細胞や硬組織形成細胞を対象に細胞内カルシウム濃度測光やパッチクランプ法を用いてそれぞれの細胞特性を明らかにしている。その一つを記すと、ラットから急性単離した象牙芽細胞にアルカリ刺激(pH8.0~10.5)を行うと象牙芽細胞の細胞内カルシウム濃度が増加する。そのカルシウム濃度上昇はTRPA1チャネルを介して細胞外から流入するものと細胞内カルシウムストアーから放出されるものとがあることを明らかにした。さらに象牙芽細胞をアルカリ性培養液(pH8.79)のもとで培養すると、細胞膜イオンチャネル型受容体活性化に伴い、石灰化が促進することも明らかになった。このことは水酸化カルシウム製剤による第三象牙質や象牙橋形成において象牙芽細胞の細胞内カルシウムシグナルが重要であることの証拠を示すものと考えている(Journal of Dental Research, 95, 1057-1064, 2016)。